2025年10月にパラリンピックメダリストの佐藤圭太さん
(トヨタ自動車)にご来社いただき、「人生のエネルギー」の
題目の講演と社員向けに義足体験会を開催していただきました。
壮絶な人生を自らの決断で切り開かれた佐藤さんを知り、
合わせて貴重な義足体験を通してきっと何かが社員の心の中に
広がった会となりました。
佐藤圭太さんプロフィール
(佐藤さん提供)
・1991年7月生まれ。静岡県出身。
・小学校4年生からサッカーを始め、ゴールキーパーとして活動していたが、中学3年生で右足に悪性腫瘍を発症し、右下腿(ひざ下)を切断。焼津中央高校に進学後、リハビリの一環として陸上競技部に入部。高校1年生の夏、競技用義足で初めて走り、高校3年時には200mで障害クラス(T64)での日本記録を樹立。
・2010年中京大学体育学部に進学し、陸上競技部に所属。大学卒業後は中京大学職員に。
・2016年春にトヨタ自動車に入社し、競技と仕事を両立。トヨタスポーツ推進部スポーツ支援室ダイバーシティ推進グループにて勤務。
・2024年8月競技者生活にピリオド。
<国際大会での活躍>
➢2012年ロンドンパラリンピック 400mリレーで4位入賞。
➢2014年アジアパラ競技大会(仁川) 100m、200m、400mリレーで金メダル(三冠)
➢2016年リオパラリンピック 100mでアジア・日本新記録(当時)、400mリレーで銅メダル
➢2017年世界パラ陸上競技選手権 400mリレーで銅メダル
<自己ベスト>
➢100m 11秒75
➢200m 23秒85
義足体験
佐藤さんが愛用されているXiborg社(サイボーグ。トップアスリートが使用)から競技用義足をお借りし、義足体験会を実施しました。
競技用義足は保険適用が無いため30万円~50万円と非常に高価なものです。(日常用は保険適用後3万円~5万円)
義足体験した社員の感想は、
「怖い。松葉杖より、全然難しい!」
「義足を付けてスポーツをするとか、スピードに乗るとか、全然想像が付かない。視界も違うので選手の皆さんが走ったりできるのがすごいと感じました。これから競技の見方が変わると思います。」
「片足だけ装着して走るのは、義足の弾力と自分の足との兼合いで、より難しいのではないかと感じました。」
「意外と重くなく、動きやすかった。でも軽快に動作をするのは程遠い!」
そういった声があった一方で、
「ジャンプがしやすく、軽やかに動けます!」
「すごくしなるので、ピョンピョンと飛べる感じです」
「慣れるまでは怖いですが、楽しい体験でした!」
との声も聴かれ、参加した社員は積極的に初めての体験を楽しんでいました。
佐藤選手には、両足義足の400m選手は健常者の日本記録より早く、義足が大きな能力を秘めたものであることも教えてもらいました。
手術の決断から義足選手との出会い
中学3年生のある日、右足のくるぶしに腫れ物ができ、その腫れが大きくなり、痛みが出たため病院に行き検査をしたところ、先生から悪性腫瘍であることを告げられました。 手術の方法は足を残し患部だけを切除するか、足を切断するかの2つであり、最終的には自分の意思で、病気の転移のリスクが低く、義足でもリハビリによりスポーツを続けることができると考え、足を切断する決断をしました。
いざ足を切断すると、うまく義足が使えず現状を受け入れられなくなり、周りの目も気になり落ち込み、更に家族が悲しみに暮れているのを見て、居たたまれない日々を過ごしていました。 暑い夏も長ズボンをはいて、義足だと気づかれない様にしていました。 パラ陸上のことを知り、いざ競技に出ても、義足に対するコンプレックスで、控室の隅で着替えをしていました。
そんな時! 義足の選手が、会場のどこであっても堂々としているのを見て、すごくカッコよく思えました。 この事がきっかけで、「足は生えてこない。 義足でも今迄の自分と何にも変わらない!」 と思え、現実を受け入れることができました。
1つ目の人生のエネルギー:「障がいに対して力みのない社会を作りたい!」
もう一つの出来事は、お持ちした義足の製作者である尊敬するXiborg社代表の遠藤謙さんとので出会いです。遠藤さんは競技用義足のエンジニアで、「義足がメガネと同じような存在になれば、障がいをもっと肩ひじ張らずに受け入れられる社会になる。」と言われ大きな感銘を受けました。遠藤さんとの出会いは大学時代ですので、中学3年生のあの時にこの言葉を聞いていたら自分の人生は変わっていたと思うぐらいでした。ここから自分の中で「障がいに対して力みのない社会を作りたい」という志が生まれました。
2つ目の人生のエネルギー:「今度は自分が手を差し伸べる番!」
義足のユーザー負担金額は、保険適用の有無で日常用と競技用では大きく違います。負担が大きいからとの理由でスポーツを諦めることがないようにと、遠藤さんと一緒にNPO法人「ギソクの図書館」を立ち上げました。競技用義足のレンタルと体験できるラボを開設しました。(東京都江東区有明にあるそうです)
ギソクの図書館 Blade Library – 誰もが走れる場所
この活動も、中学3年生で足を切断し、初めて日常用義足を付けた時に感じた「日常義足で走れるわけがない」と絶望した自分に対し、病院の関係者が今後の自分の人生を考え、高価な競技用義足を用意してくれたことで前向きな気持ちが持てたことが根底にあります。 手を差し伸べてくれた大人がいたからこそ、自分の未来は作ることが出来たと強く思っています。 大人になった自分が、今度は手を差し伸べる番だと思っています。 「恩送り」です。
「人生の操縦席にいるのは自分だ!」
パラリンピックに出場する選手は、原因は様々であれ、自ら望んで障がいを持った人はおらず、自分の弱さ、不条理、現実から目を逸らしたいことを克服し、前に進む決断をした選手達です。だからこそ感動を与えることができるのかもしれません。
自分としては15歳の足を切断した時に、つらい現実から逃げなかったことを誇りに思っています。
「人生の操縦席にいるのは自分だ」は、最後は尊厳死を選んだベルギーのパラリンピック選手の言葉です。自分も今迄の人生を振り返り、周りの方の助言をいただきながら、最後は自分で人生の選択をしてきました。これからもその選択がどのようなものであれ、自ら決めたことが正解だと信じていきたい思っています。
最後に社員の質問にお答えいただきました。
ーー仕事で緊張することがあります。佐藤さんは試合の時に緊張しない工夫をされていましたか?
(佐藤さん)陸上競技は「準備のスポーツ」と呼ばれていて、スタートラインに立った瞬間にほぼ勝敗は決まっています。そのため、そこまでの準備をしっかりしていれば、緊張もしませんでしたし、緊張していた時は何か準備に不足があった時でした。
ーー義足等の最新技術はどういったものですか?
(佐藤さん)膝関節の動きを補うAI等のテクノロジーがあり、電動義手では自然な反応で指を動かすことが既に出来、近い将来には脳波によりコントロールする義手も出てくると思います。
あとがき
中学3年生の決断、それからの約20年間を淡々とお話しくださった佐藤さんのお人柄とエネルギーに、参加した社員は多くの気付きを受けたことと思います。
貴重なお話と体験をさせていただきありがとうございました。
佐藤さん、これからの活動、頑張ってください!!
当社はこれからも、あらゆる人たちが活躍できる多様な社会・職場づくりに精力的に取り組んでいきたいと考えています。