増加する温室効果ガス、上昇する気温など、気候変動は、世界が直面する大きな課題の1つです。当社グループは、この気候変動問題に対し真摯に取り組み、「サステナビリティへの取り組み」におけるマテリアリティ(重要課題)の1つとして「脱炭素社会実現への貢献」を掲げ、事業を通じて貢献することを目指しております。

 

 同時に、TCFD(Task Force on Climate-Related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)に沿った分析と情報開示を、適切なガバナンスとリスク管理体制の下で実施していくことで、当社グループにとっての気候変動問題によるリスクと機会に対する認識と行動を深めるとともに、持続可能な社会を目指してまいります。

ガバナンス

 当社は、気候変動に関わる全社横断的な議論を行うサステナビリティ委員会を設置しています。当委員会は、サステナビリティ統括責任者および人事・総務グループ長を共同委員長とし、財務・主計グループ長、企画グループ長、リスク管理グループ長、ITシステム・事務グループ長、法務コンプライアンスグループ長、および、ESGに関わる各部門の担当役員で構成し、議題に応じてほかの関係者も出席して、幅広い議論を原則四半期ごとに行っています。

 

 具体的には、ESGを含むサステナビリティに関わる情報共有、サステナビリティ経営の基本方針・目標の立案、計画の実行状況のモニタリングと対策協議等を行い、気候変動への対応やサステナビリティへの取り組み、環境変化に対応した経営等についての 議論を行っています。

 

 議論した事項は、経営会議での協議・報告を経て取締役会へ付議・報告し、経営戦略に反映しています。また、気候変動への対 応状況や目標・指標のパフォーマンス評価は、取締役会へ原則四半期に一度報告し、取締役会が適切に監督する体制です。

 

戦略

気候関連の短期・中期・長期のリスク及び機会

 当社グループは、気候変動に伴うさまざまなリスク・管理を、戦略上の重要な観点の1つとして捉え、「脱炭素社会実現への貢献」をマテリアリティとして特定し、取り組みを進めております。

 こうした取り組みの中で、短期のみならず、顕在化し得る中長期の時間軸でも、気候変動の影響を評価しております。影響を受ける時期については、1~5年程度を短期、日本政府が二酸化炭素排出量46%削減を目指す2030年までの10年程度を中期、世界的にカーボンニュートラルを目指す2050年までの30年程度の時間軸を長期と想定しております。

移行リスク・機会と物理的リスク・機会の影響

 当社グループにとっての気候変動に伴う移行リスク・機会と物理的リスク・機会の影響は、主に下表に示すとおりです。

種類

主な内容

時間軸

移行リスク

政策

炭素税・炭素価格の導入による、温室効果ガス排出量の多いセクターに対する与信コストの増加

中・長期

規制

排出量報告義務の強化など、国際的な対応要請の高まりを踏まえた規制変更への対応コストの増加

短期

物理リスク

急性・慢性

異常気象の激甚化の結果、風水害による当社既存資産の毀損による資産価値の低下、事業活動の制限や復旧コストの増加

短・中・長期

機会

再生可能エネルギー及びエネルギー効率のより良い輸送手段へのシフト、環境配慮型またはレジリエンス確保を目的とした商品・サービスの普及に伴う、ファイナンス需要及び事業機会の増加

短・中・長期

重要度の高いセクターについてのシナリオ分析

 全社的に、温室効果ガス(GHG) 排出規制や、異常気象の激甚化の影響を受けることが想定されると同時に、再生可能エネルギーに関わる事業や省エネ物件へのファイナンス需要の高まりを受けることも期待されます。なお、石炭火力発電所の新規建設を資金使途とする投融資等は行わないこととするセクターポリシーを定め、気候変動リスクを考慮した取引の判断を行っております。
 不確実性の高い気候変動の影響を捉えるために、関連する移行リスクと物理的リスクを含めて、下記のステップで重要度の高いセクターに関する複数の定性的なシナリオ分析を行いました。

① セクター選定
 TCFDが開示を推奨するセクター(気候変動の影響を受けやすい業種)を対象に、

  1. 気候変動による移行リスク・物理的リスクの大きさを定性的に評価し、
  2. 当社グループにとっての業種別のエクスポージャーを考慮し、
  3. 戦略的な重要性を踏まえ、

 当社グループにとっての重要度を分類いたしました。そのうえで、電力と不動産セクターをシナリオ分析の対象として特定いたしました。
② 重要度評価
 事業インパクトの大きさを軸に、電力と不動産セクターにとってのリスク・機会の重要度を評価いたしました。
③ シナリオ群の定義とパラメーター設定
 客観性の高い科学的パラメーターから、影響の発現時期と大きさを想定いたしました。(出典*)
④ 事業インパクト評価
 IEA(※1) WEO(※2)2021のNZE(※3)シナリオとIEA WEO2021のSTEPSシナリオを参照し、1.5~2℃以下、4℃の2つのシナリオに基づいて、2050年までの分析軸で気候変動リスク推移を評価いたしました。

 

※1 IEA: 国際エネルギー機関(International Energy Association), ※2 WEO: World Energy Outlook, ※3 NZE:実質ゼロ排出量(Net Zero Emission)

出典元*

  • 日本:気候変動サミットでの宣言(2021/4/22)
  • EU 各国約束草案資料
    * EU: ベルギー、ブルガリア、チェコ、デンマーク、ドイツ、エストニア、アイルランド、ギリシャ、スペイン、フランス、クロアチア、イタリア、キプロス、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、ハンガリー、マルタ、オランダ、オーストリア、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロベニア、スロバキア、フィンランド、スウェーデン
  • WRI “The Aqueduct Global Flood analyzer”
  • アメリカ海洋大気庁(NOAA)”Global Warming and Hurricanes”(2021/9)
  • IEA "Energy Technology Perspective2017"
  • IEA "World Energy Outlook2018"
  • IEA "World Energy Outlook2021"
  • 経済産業省「ZEHの普及促進に向けた政策動向と平成30年度の関連予算案」(平成30年3月)
  • 環境共創イニシアチブ、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス支援事業 
  • ZEH 3省連携施策説明会(環境省)
  • xymax「環境マネジメントの経済性分析」
  • 気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会「気候変動を踏まえた治水計画のあり方 提言」
  • 気象庁 HP「世界の過去および将来の海面水位変化」
  • 環境省他「気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018 ~日本の気候変動とその影響~」 
  • 気象庁「気候変動監視レポート2020」

<電力セクター>

 電力セクターのシナリオ分析の結果は下記のとおりです。

2℃/1.5℃シナリオ

4℃シナリオ

リスク

2030年以降、炭素税導入・炭素排出規制強化・エネルギーミックスの変化等を通した化石燃料の削減が想定されるため、電力会社の収益性への影響が想定されるが、当社の場合、与信コストへの影響は限定的

なお、当社は火力石炭発電等に関する事業運営は行っていない

将来的に洪水被害が頻発するため、発電設備等への損害が想定される。また、原油価格の上昇により発電コストが上昇し、電力会社の収益性に影響が想定されることから、当社与信コストへの間接的影響が想定される。ただし、当社事業への直接的影響は限定的

機会

再生エネルギー事業の成長が見込まれることから、事業参入や投資機会の拡大が期待される

対応

[機会を活用するための施策]

  • 太陽光のみならず、バイオマス、水力、風力等、様々な再エネビジネスに対し、事業リスクを取って開発
  • 蓄電池や水素等の新しい電源にもリーチを拡大
  • 事業運営管理ノウハウの蓄積や新技術の導入により、保有事業の収益の極大化を図る
  • 補助金等を活用した設備投資
  • 座礁設備や中古パネル等のリサイクルビジネスの収益化

[リスク低減策]

  • 当社を取り巻く環境変化に応じたセクターポリシーも踏まえて、個別案件に対する多面的で慎重なリスク判断の実施

 1.5~2℃以下シナリオでは、電力会社の収益性への影響が想定されますが、当社に影響するリスクは限定的な一方、機会の面では再生エネルギー事業の成長が見込まれます。4℃シナリオでは、将来的な洪水被害の頻発による発電設備等への損害が想定され、また、電力会社の収益性低下から、当社への負の影響も想定されます。

<不動産セクターのシナリオ分析>

2℃/1.5℃シナリオ

4℃シナリオ

リスク

省エネ水準規制の厳正化による設備投資の増加や、ZEB(*1)/ZEH(*2)の義務化によるコスト上昇が想定され、テナントに転嫁できない場合等は長期的にはお客様の事業への影響による当社与信コストへの影響が想定されるが、リスクは限定的

将来的に洪水被害が頻発するため、当社関連物件が被災した場合には不動産の資産価値の毀損や修繕コスト等が発生することが想定され、お客様の事業への影響による当社与信コストへの影響が想定される

機会

物件によっては競争力の上昇、また、低炭素への意識の高まりによる高環境性能に対する賃料の増加が想定されるため、ビジネスの拡大が見込まれる

立地条件・防災性能向上等により災害に強い物件の場合は、競争力が向上することが想定され、当社の事業への影響も想定される

対応

[機会を活用するための施策]

  • 環境を配慮した不動産への投融資を強化する
  • アライアンスを活用し、物件開発フェーズまでビジネス領域を広げていくことで環境対応による機会を捉えていく

[リスク低減策]

  • より詳細なハザードマップ等の活用によるファイナンス・投資リスク判断
  • 長期保有案件に関してはより慎重な信用力評価を行う

 1.5~2℃以下シナリオでは、物件によっては競争力の上昇等が想定され、環境性能の優位性を確保することによりお客様の脱炭素社会への移行をサポートするなど、当社グループのビジネスの拡大が期待されます。4℃シナリオでは、将来的に当社グループが関与する物件が洪水等による被害を受けた場合には不動産の資産価値の毀損等が想定され、当社グループへの負の影響も想定されます。

 

*1 ZEB: Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)

*2 ZEH: Net Zero Energy House (ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)

気候変動のリスク及び機会が自社のビジネス・戦略・計画に及ぼす影響

 当社グループは、再生可能エネルギーの普及と、新たな社会インフラの再構築による環境負荷の低減を目指した事業の拡大に取り組んでおりますが、シナリオ分析により特定した電力・不動産セクターのリスクと機会を踏まえ、より具体的に気候変動の影響を考慮し、経営計画等への反映を図ってまいります。

 脱炭素に向けたファイナンスを推進し、エンゲージメントを通じて、お客様が気候変動を含む SDGs/ESG への対応に関する取り組みを進めることを支援します。また、自らビジネス領域を広げていくことで、お客様のニーズに沿ったソリューションを提供し、環境対応による機会を捉えてまいります。

リスク管理

 当社グループは、業務に伴って発生するリスクを、定量的管理を行うフィナンシャルリスクと、定性的管理を行うオペレーショナルリスクに分け、各々のリスク管理体制を定めるとともに、リスク管理委員会を設置し、フィナンシャルリスク、オペレーショナルリスクを一元的に管理する総合的なリスク管理体制を構築しております。フィナンシャルリスクについては、信用リスク・市場リスク・価格変動リスクに区分したうえで、カテゴリーごとにリスクキャピタルを配賦する管理の枠組みをもとに、リスクの所在と大きさをモニタリングしております。また、オペレーショナルリスクについては、事務リスク・システムリスク・法務リスク等のリスク事象の発生、対応、予防の状況等をモニタリングしております。当社グループは、「気候変動リスク」をオペレーショナルリスクと捉え、リスク管理委員会および総合的なリスク管理体制の下で、既往のリスク管理プロセスへの反映を開始しております。

 当社グループの主要な投資先のうち、特に気候変動による影響が大きいと考えられる電力、不動産セクターについては、炭素税やGHG排出規制等、新たな規制が設定されることによるリスクや、エネルギー構成の変化、異常気象の激甚化、お客さまの行動変化により、事業へのインパクトが発生するリスクが想定されます。

 気候変動が当社グループに与えるリスクは、規制の変更や投資先の事業構造の変化、お客さまの行動変化によるものととらえております。このような要因が当社グループの事業に複合的に影響を与える要因を分析し、リスクへの対応を精緻化してまいります。

 当社グループは、総合的なリスク管理体制のもと、「気候変動リスク」の管理についても、今後、関係機関の分析手法や研究成果を踏まえ、高度化を検討してまいります。

指標と目標

 当社グループではSCOPE1、2に関する以下の目標を設定しております。